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『聖闘士星矢』で育ったメキシコで見た、伸びしろだらけのアニメ市場——「AniMole 4(アニモレ4)」現地レポート

概要
メキシコ最大の総合ポップカルチャーイベント「La Mole」が今年30周年を迎える中、その特別編としてアニメ・マンガ・ゲーム文化に的を絞った「AniMole 4(アニモレ4)」が、9月12日・13日の2日間、メキシコシティで開催されました。自社IPの企画開発やコンテンツ投資、ライセンスビジネスを担当するフラッグ執行役員の蛯谷が現地参加。会場はコンパクトながら、ファンの熱量とこの街らしい賑やかな空気に満ちていた様子をレポートします。
メキシコは「聖闘士星矢」で育った国だった

メキシコにおける日本アニメ人気の起点は、地上波で放映された『聖闘士星矢』と『ドラゴンボール』です。1992年にまず『聖闘士星矢』が地上波に登場し、遅れて1997年に『ドラゴンボールZ』が続きました。当時人気だったのは友情や家族の絆を描くメロドラマ「テレノベラ」。そのテーマがそのまま重なり、ゴールデンタイムのメロドラマ並みの視聴率を叩き出したといいます。だから根付き方が、他の国とはちょっと違うのです。
その土台は今も生きています。夕方のテレビには今も『ドラゴンボール』の専用枠があり、2025年には『鬼滅の刃』が地上波初放送、劇場版は約3,000スクリーンというハリウッド大作級の規模で公開されました。Netflixでは『ダンダダン』がシーズン1で11週連続ランクイン。もう「一部のファンの趣味」なんて域は、とっくに超えています。
つまりメキシコにとってアニメは、輸入されたブームではなく、もう何十年も前からこの国の文化に根付いているものでした。その土壌の上で開催されたのが、今回の「AniMole 4」です。
「AniMole 4」とは

「AniMole」は、1996年創業のメキシコ最大級のポップカルチャーイベント「La Mole」から、アニメ・マンガ・ゲームに特化する形で派生した特別編です。La Moleが30周年を迎える節目にあたる今年、4回目となる「AniMole 4」は、メキシコシティのWTC(World Trade Center)内にあるCIECという展示施設で9月12日・13日の2日間開催されました。ゲストにはドラゴンボールのピッコロ役で知られる古川登志夫さんの姿もありました。

会場は小さく、日本企業のブースも少ない
そもそも会場の規模は、AnimeJapanのような日本の大型イベントと比べるとぐっとコンパクトです。日本企業のブースを数えても、東映アニメーション(『ONE PIECE』)とバンダイナムコが大型ブースを構えていたほかは、ブシロード、Canon、マルちゃんとごくわずか。


中でも異彩を放っていたのがマルちゃんです。メキシコでは即席麺の代名詞と言えるほどの国民的ブランドで、市場シェアは8割を超えるとも言われ、スーパーのどこに行っても目にする「暮らしの一部」のような存在。アニメ企業のブースと肩を並べてマルちゃんが出展していたのは、アニメというジャンルとはまた違う角度で、日本のブランドがこの国にすでに深く根を張っていることを思い出させてくれました。


ほかに会場の熱を集めていたのは、スペイン語圏向けに展開する出版社「Panini」や、モバイルゲーム『Free Fire』の大型ブースでした。『NARUTO』疾風伝とのコラボ企画に加え、Free Fire発のオリジナルアニメ『Free Fire: DayBreak』(KADOKAWAとの共同製作、2027年春公開予定)を大きく打ち出していて、日本のIPに割り込むようにアニメ文化に食い込んできている様子が印象的でした。
耳で馴染んだ“声”に、直接会えるということ


メキシコでは地上波の時代から、日本のアニメはスペイン語吹き替えでずっと観られてきました。『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』の“声”として先に耳に馴染んでいるのは、現地の吹き替え声優のほう。だからこそ、演じた声優本人と直接顔を合わせられる機会は、特別な意味を持つのだと思います。
それぞれの声優に専用ブースが割り当てられ、これまで演じてきた複数キャラクターのイラストがずらりと掲げられて、サイン会や撮影会がひたすら続く。日本のアニメイベントだと声優はステージの上、ファンは客席という距離感が前提にありますが、ここではその境界がぐっと近くなっていました。
グッズ売り場に並ぶ、代わり映えしない棚

『呪術廻戦』など

『ちいかわ』関連

オリジナルTシャツ
物販エリアの主役は、日本からグッズを扱う輸入業者たちのブースでした。並んでいる作品は『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』、『聖闘士星矢』、『NARUTO』、『新世紀エヴァンゲリオン』といった定番から、『呪術廻戦』や『ちいかわ』まで一通り顔を揃えています。中には現地オリジナルのアパレルを手がけるブースもありました。
グッズ売り場を何軒か見て回るうちに、あることに気づきました。どの店も、置いてある商品がびっくりするくらい似ているのです。日本から輸入したグッズを扱う複数のショップを覗いても、キャラクターやラインナップに大きな差がない。ファンとしては「もっといろんな商品を見たい、選びたい」というのが本音だろうと思います。需要はもう十分に温まっているのに、選べる棚がまだ薄い。これは裏を返せば、手つかずのビジネスチャンスがそのまま会場の床に転がっている、ということでもあります。
メキシコシティに現れたバンダイナムコの旗艦店


会場でブースを構えていたバンダイナムコの動きは、実は会場の外にもつながっていました。8月21日、メキシコシティのコロニア・フアレス地区に、同社の常設直営店がオープンしました。中南米では初となる公式ショップで、S.H.Figuartsやたまごっち、ガシャポンのマシンがずらりと並び、現地のファンが楽しそうに商品を眺めている姿がありました。
値札を見ると、日本国内の2〜3倍ほどの価格設定です。それでも人が集まってくる。AniMoleの会場でも、街なかの店舗でも、同じ熱量が形を変えて表れていました。正規の受け皿がひとつできただけでこの反応が返ってくるあたりに、この市場がまだどれだけ「これから」なのかが表れていたように思います。
総括
『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』がテレノベラの文脈に溶け込んでから、もう30年以上が経ちました。その間、メキシコのファンはずっとアニメへの愛着を積み重ねてきました。声優ブースにできる長い列が、その何よりの証拠です。足りていないのは熱量ではなく、その熱量を受け止めきれるだけの供給網のほうです。
会場を出るとき、頭に浮かんだのは「もったいない」という一言でした。これだけ長い時間をかけて温められた土壌に、まだ数えるほどの企業しか種を蒔いていない。会場で見たあの熱量を思えば、日本のアニメビジネスにとって、本番はまだこれからです。

蛯谷 朋実
IPコンテンツ事業部管掌 執行役員
前職で映画のデジタルプロモーションや映画メディアのブランディングなどを経験したのち、フラッグにて自社IPの企画開発やコンテンツ投資、ライセンスビジネスを担当。


