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VODは映画館の敵?「配信×劇場」の相乗効果を生む映画マーケティング

概要
コロナ禍以降、急速に普及しエンタメコンテンツの鑑賞形態として定着したVODサービスは、これまで映画館の来場者を奪う「競合」として語られてきました。しかし、近年の市場動向やユーザーの行動データを紐解くと、VODと映画館は互いを高め合う「共存関係」へとシフトしていることが見えてきます。
本記事では、映画業界のデータ分析やマーケティング戦略設計を担う当社マーケティングイノベーション室が、独自のアンケート調査をもとに現代の映画ファンがたどる行動サイクルや都市・地方における映画習慣のギャップを分析。現代の映画宣伝において興行収入を最大化し、映画ファンのLTV(顧客生涯価値)を高めるためのマーケティングのヒントを探ります。
VOD需要の定着
まずは前提として、VOD需要がどのように拡大してきたのか、そして映画館市場にどのような影響を与えてきたのか、近年のデータをもとに整理してみましょう。
2020年ごろから普及し一般的な映画の鑑賞形態として定着
2020年のコロナ禍を契機に、NetflixをはじめとするVOD(動画配信)サービスの利用率が急上昇しました。

現在においてもその利用率は高い水準を維持し、VOD利用者数は年々緩やかな増加を続けています。VODサービスは、映画やドラマをはじめとするエンタメコンテンツを楽しむ一般的な手段としてすっかり定着しているのです。
VODサービスは映画館の利用客を奪っている?
「いつでも自宅で安価に映画が観られるなら、人々は映画館に行かなくなるのではないか」という懸念から、VODは長らく映画館ビジネスの競合として捉えられてきました。しかし、近年の興行データを調査すると、全く逆の関係性が見えてきます。
映画館への来場者数はコロナ禍で激減し、数年にわたって低迷していました。しかし、昨年2025年にはようやくコロナ前(2019年)に迫る水準まで達し、興行収入においては過去最高を記録しています。

VODの利用者が伸び続けている状況で、映画館の興行収入の記録更新が同時に成り立っている事実は、いまやVODと映画館が顧客を奪い合う競合関係ではないことを明確に示していると言えます。
映画館に行く人ほどVODサービスを利用している
このような市場における関係性の変化を裏付けるべく、フラッグでは「年に1回以上映画館で映画を観る」406名を対象にアンケート調査を実施しました。

調査の結果浮かび上がったのは、「VODの利用頻度が高い層ほど、映画館へ行く頻度も高い」という傾向です。
- VODサービスを日常的に利用する層(週1回以上):40.1%が映画館にも「月に1回以上」足を運ぶコアファン。
- VODサービスをたまに利用する層(月1〜3回): 33.0%が映画館に「月1回以上」来場。
- VODサービスをほとんど利用しない/全く利用しない層: 映画館への来場は「年に1〜3回程度」のライト層が約6割(ほとんど見ない:66.7%、利用しない:59.0%)。
この結果から、VODは映画体験の機会を増やし、映画ファンを育成する「土壌」として機能していることが分かります。日常的にVODでコンテンツに触れることでエンタメへの熱量が高まり、それが映画館への来場を促す呼び水となっています。つまり、VODが定着することにより、VODと映画館の関係性が「競合」から、相乗効果を生み出す「共存」に変化したと考えられます。
『超かぐや姫!』が示した配信と劇場鑑賞の相乗効果
VODと映画館の共存関係を象徴する出来事となったのが、2026年上半期の話題作『超かぐや姫!』です。本作は当初Netflix限定のアニメ映画として配信されました。しかし、配信開始後にSNS等で話題を呼んだことで、「豪華ボカロPによる楽曲と劇中の迫力あるライブシーンを、映画館の音響/大画面で音楽ライブのように体感したい」というファンの熱量が高まり、最終的に全国100館を超える規模での劇場拡大公開へと発展。興行収入27億円超のヒットを記録しました。
また、本作には一度の視聴では見つけられないほどの小ネタや伏線が散りばめられていたこともVOD視聴を盛り上げる要因になりました。「いつでも手元で観返せる」環境があったからこそ、ファンは作品の細かな伏線や楽曲を繰り返し視聴し、映画館で鑑賞する日に備えました。「家で予習・復習を行い、特別なイベント(本番)として映画館へ足を運ぶ」という新たな行動サイクルが生まれたのです。
都市と地方 映画文化の地域差
映画館ビジネスにおいて、VODとの関係性と並んで見過ごせないのが「都市部と地方における映画習慣の差」です。
この地域差の実態を深掘りするため、今回の調査では「地域別の映画館およびVODの利用動向」についても分析を行いました。 調査結果を読み解く前提として、まずは日本の映画館分布の現状から見ていきましょう。
映画館は都市部に集中している

日本のスクリーン数の都道府県別割合を見ると、東京都(11.3%)、愛知県(7.4%)、大阪府(6.3%)のわずか3都府県に全国のスクリーンの約25%が集中しています。
映画館はこれまで、大衆娯楽や文化芸術のインフラ的存在として機能してきました。しかし、全国どこでも容易にアクセスできるような公共性は不足しているのが現状です。
映画館の来場頻度:都市は中間層、地方はコア層の割合が高い
さらに、映画館への来場頻度を三大都市とその他地域で比較したところ、ユーザー層の構成に違いが見られました。

- 三大都市: 「2〜3か月に1回」観に行くミドル層が多い。
- それ以外の地域: 「月に1回以上」のコア層が多い。
ミドル層とコア層の合計を比較すると、三大都市は59.2%、その他の地域は55.6%となり、定期的に映画館へ通う層の割合自体に大きな差はありません。しかしその内訳では、三大都市では映画館に「2〜3か月に1回」行くミドル層が多い一方、その他の地域では「月に1回以上」行くコア層が多い傾向があります。
三大都市では身近に映画館があるため気軽に行きやすく、結果としてミドル層が多く形成されます。一方、地方では「行ける距離に映画館がある人」を中心に利用されるため、ミドル層の比率は下がってしまうのです。
映画館に行きやすいかどうかという利便性の違いが、地域ごとの映画習慣の差を生んでいると言えるでしょう。
VODの視聴頻度:都市と地方で地域差は小さい
それでは、映画習慣の差のように、エンタメコンテンツへの興味関心度にも地域差はあるのでしょうか?
VODの利用頻度を調査したところ、週1回以上利用すると答えた層は三大都市では35.5%、その他の地域は32.7%と、大きな差は見られませんでした。

VODは全国どこでも一様に楽しむことができます。つまり、地理的な制約さえ取り除けば、映像エンタメに対する「潜在的な熱量」に地域差はないと言えます。
映画作品で大きなヒットを生み出すには、全国規模での認知と興味関心の獲得が不可欠です。地方や郊外に住む「映画館まで地理的に距離がある層」に移動コストのハードルを越えて来場してもらうためには、強い動機となる深い関心を引き出さなければなりません。その突破口として、地域を問わず広く普及しているVODサービスをプラットフォームとした認知拡大・興味関心向上の戦略が、今後ますます有効になるでしょう。
まとめ:映画館とVODは「競合」から「共存」へ
今回の調査・分析から見えてきたのは、VODと映画館のシナジーを前提としたマーケティング戦略の重要性です。
今やVODは映画館の客を奪う競合ではなく、映画ファンを育てる重要な土壌です。大作/中小規模作品を問わず、VODを重要なタッチポイントとして捉えたマーケティング設計が業界活性化の大きな鍵となります。
今後のマーケティングにおけるポイント
- 「配信×劇場」の同時期展開・連動
根強いファンを持つIP作品であれば、『超かぐや姫!』のように配信と劇場公開を同時期に連動させ、「これを劇場の大スクリーンで観たい」と思わせる導線設計が有効です。過去作がVODでの話題化を経てリマスター上映で盛り上がるのも同様の文脈と言えるでしょう。
また、今まではTV放映でファン層を広げてから劇場へ繋ぐパターンが定着していましたが、近年ではアニメ『【推しの子】』のように配信でファン層を拡大し劇場版の公開へ繋げる流れが多くなりつつあります。直近でもNetflixで大きな話題となった『九条の大罪』の映画化が発表され反響を呼んでいます。
アニメ作品だけではなく、VODでヒットした実写作品が劇場でどこまでの結果を残すのかは、今後の「配信×劇場」の可能性を検証する上でも注目の動きです。
- 作品の枠を超えた横断的なアプローチ
今後は、単にVOD上で関連作品の予告を流すといった単発の施策に留まらず、「劇場の来場者データ」と「VODの視聴データ」を掛け合わせたアプローチも不可欠です。双方のデータをかけ合わせることで、劇場に足を運んだ人のデータをVODでの追体験に生かしたり、VODで熱量が高まった人を次の劇場公開へ呼び込んだりと、ファンとの関係を長く維持できるようになります。こうしたデータ連携によって「一過性のヒットで終わらせないファン作り」を仕組み化していくことで、結果として映画館と配信の双方が潤い、業界全体の活性化につながるでしょう。
- 映画ファンの育成とLTV(顧客生涯価値)の最大化
VODを通じて日常的に映画へ触れる機会を増やすことは、居住地域を問わず映画ファンそのものの育成につながります。映画鑑賞の習慣化に加え、劇場体験の価値を高めて来場回数を増やすことで、単発の興行収入だけでなく、映画館利用者のLTV向上へとつながっていきます。
かつてレンタルビデオショップが映画ファンを育てる場であったように、現代におけるVODは未来の映画ファンを育てる重要なプラットフォームです。VODを「競合」ではなく「映画館への呼び水となる重要なタッチポイント」として捉え直すことが、これからの映画マーケティングにおける戦略の要となるでしょう。
【注釈】本調査は「直近1年以内の映画館利用者」を対象とした劇場の利用実態およびインサイトの抽出を主目的としています。そのため、各エリアにおける回答者の行動特性を安定したサンプルサイズで比較・分析できるよう、居住地(都道府県)別の人口構成比によるウェイトバック集計は行わず、ローデータをもとに集計・分析を行っています。

佐藤 和香
エンタメコンテンツマーケティング事業部 マーケティングイノベーション室
デジタルマーケティングを主軸に、SEO施策の戦略設計やWeb制作のディレクターとしてキャリアを積む。現在は株式会社フラッグにて、映画マーケティングのDXを推進する「シネマDXプロジェクト」に従事。データに基づいた新しい映画宣伝のあり方を追求している。


