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【エンタメの未来を守る】なぜ海賊版はなくならない? 10兆円市場を正規版へ変える次の一手

概要
このコラムでは、10.4兆円規模に拡大した海賊版被害の現状を踏まえ、各国の捜査機関と連携した「取り締まり」と、アクセシビリティ改善による「市場創出」の両輪で正規市場を取り戻すための道筋を、エンタメ企業社長が提言します。
目次
- はじめに
- 推計10.4兆円の衝撃と、正規市場への深刻な影響
- オンライン被害の急増と、初めて見えた「グッズ被害」
- 政府目標を前倒しで達成しうる「失われた10兆円」
- 国境を越えたチームプレー|世界で進む「摘発」のリアル
- イタチごっこを終わらせる「動的ブロッキング」と現地連携
- 日中企業がタッグを組んだ、巨大サイト摘発の舞台裏
- 「見られない」をなくす、未来のための投資戦略
- 「正規版がない」を言い訳にさせない。AIと同時配信の加速
- 「損して得取れ」。韓国に学ぶ途上国市場の開拓モデル
- さいごに
はじめに
経済産業省からの委託を受け、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、日本発コンテンツの海賊版被害に関する最新の調査結果を発表しました。この調査により、市場拡大の裏側で深刻化する海賊版問題の実態が明らかになりました。
推計10.4兆円の衝撃と、正規市場への深刻な影響
オンライン被害の急増と、初めて見えた「グッズ被害」

(引用:一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構)
オンラインでの海賊版被害額は、2022年の2兆円から2025年には5.7兆円へと大幅に増加しました。今回初めて調査対象となったキャラクターグッズの被害額も4.7兆円にのぼり、合計すると2025年の海賊版被害総額は推計10.4兆円に達しています。
特に映像と出版分野での被害が顕著であり、海外におけるアニメ・マンガ市場の拡大に伴い、被害額も急増しています。
政府目標を前倒しで達成しうる「失われた10兆円」
2024年時点の海外での日本発コンテンツの正規市場規模は約6兆円程度です。政府目標として2028年に10兆円、2033年に20兆円を目指していることを踏まえると、この10.4兆円という被害規模は極めて深刻です。
もし海賊版被害の半分でも正規市場に取り込めた場合、2025年段階で2028年の目標を軽々とクリアできる計算になります。このことからも、海賊版がコンテンツ産業へ与えるダメージの甚大さがわかります。
国境を越えたチームプレー|世界で進む「摘発」のリアル
イタチごっこを終わらせる「動的ブロッキング」と現地連携
海賊版対策としては、オンライン上でのパトロールが基本です。検索サイトやソーシャルメディアへの削除要請に加え、海賊版サイトがURLを変更しても即座にアクセスを遮断する動的ブロッキングなどが効果を上げています。
さらに重要なのは、海外各国当局による摘発の強化です。著作権法違反は多くの国で「非親告罪」にあたりますが、権利者が具体的な違法行為を指摘しなければ、捜査が放置されるケースが多くあります。世界中で違法行為を調査し、発見した際は放置せずに関係当局に通報し、適切な措置を依頼する必要があります。この作業を中心となって行っている機関がCODAです。
日中企業がタッグを組んだ、巨大サイト摘発の舞台裏

(引用:一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構)
2026年1月には、世界最大級のマンガ海賊版サイトが中国で摘発されました。この件では、CODAが日本の大手出版社からの要請を受けて中国当局に刑事告発を行った他、同様に被害を受けていた中国の出版関連企業とも連携し、共同で告発した結果、摘発に至りました。
自国だけの被害を訴えるのではなく、各国のコンテンツ企業とも連携して対策を行う姿勢が、成果に繋がっています。
「見られない」をなくす。未来のための投資戦略
「正規版がない」を言い訳にさせない。AIと同時配信の加速
そもそも海賊版が蔓延する背景には、無料で入手できる経済的理由だけでなく、「正規の方法でコンテンツが入手できない」というアクセシビリティの問題があります。正規版コンテンツの提供方法を公式に用意することが重要です。アニメ市場においては、NetflixやCrunchyroll(クランチロール)などのグローバルなOTTサービスがその役割の一部を担ったといえます。
また、正規版が提供されていても翻訳に時間がかかるため、少しでも早く見たい・読みたいユーザーが海賊版に流れるケースも少なくありません。こうしたニーズに対応するため、日本と同時期に翻訳版の提供を行うスタジオや出版社も出てきています。翻訳にかかる時間とコストを抑えるためにAIを積極的に導入する動きも見られ、技術の進歩が課題解決に繋がる事例として注目されています。
「損して得取れ」。韓国に学ぶ途上国市場の開拓モデル
海賊版対策は、本来得られた逸失利益を取り戻すための施策であると同時に、将来の市場を拡大するための戦略でもあります。海賊版にシェアを奪われている地域では、あえて無料・廉価で公式コンテンツを提供することによって海賊版を撲滅し、ユーザが高所得になった際に有料課金してもらえるよう、将来の市場作りのための戦略投資を行うことも重要です。

こうした動きは、かつて1990年代後半に韓国ドラマが東南アジアのテレビ局に無償で提供され、今日の韓流・K-POPブームに結びついた事例を参考にできます。今後の日本発コンテンツのニーズ拡大が見込まれる途上国の市場向けに、無料で電子コミックやアニメを提供するような取り組みも有効な一手となるでしょう。
さいごに
海賊版に奪われている市場を正規版に取り込み、健全な市場成長を目指すためには、地道な取り締まり対策と大胆な市場創出策、その両方に取り組んでいくことが、業界には求められています。

久保 浩章
株式会社フラッグ 代表取締役
東京大学経済学部在学中の2001年にフラッグを創業し、04年1月に株式会社化。映画をはじめ、エンタメ業界のデジタルマーケティング支援を中心に手掛ける。


