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人生のリスタートをどう描くか? – ドラマ「ゲームチェンジ」プロデューサーのマインドマップ

概要
ドラマ「ゲームチェンジ」がBS-TBSにて1月8日から毎週木曜よる11時に放送開始します(全10話)。このドラマは、スマート農業をテーマに、若者3人と周辺の人々を描いたオリジナル作品で、昨今「令和の米騒動」など農業への関心が高まるなか、現代社会の問題や人々を多角的に切り取っています。
本コラムでは、本作品を企画したプロデューサー・青野華生子がいかに社会のインサイトを抽出し、コンテンツへと昇華させたかという思考プロセスを公開します。
はじめに
昨年末ぐらいに、「スマート農業」の普及に取り組んでいる企業の方と知り合い、それがきっかけで企画を考えはじめました。令和の米騒動での生産者と消費者の考え方のちがいを見て、もどかしいものがありましたし、日本の農業を取り巻く諸問題をいまある社会全体の問題とつなげて自分なりに考えてみたいとも思いました。
今回のドラマはヒューマンの部分に重きを置いているので、スマート農業入門編の内容だと思います。ただ僭越ながら農家さんたちの考えや思いを込めた部分もありますので、就農している方にもぜひ観ていただけたらうれしいなと思っています。
⇩撮影でお世話になったソメノグリーンファームさん。社長の染野さんに、初対面で根掘り葉掘りお話を聞いて、ご本人のエピソードも脚本に取り入れさせていただきました🙏



⇩9月の屋内の撮影時。なんかたのしそう



「スマート農業」から「人間の物語」へ
以前ふくしま12市町村のドラマを企画・プロデュースしたとき(「姪のメイ」「風のふく島」)もそうだったんですが、「ニッチなテーマのなかにも人間の普遍性を描く」というのがいつも、わたしにとって大切なポイントで、今回は「スマート農業=農業×テクノロジー」から紐解いて、「調和だな💡」となりました。
調和とは、「全体(または両方)が、具合よくつりあい、整っていること」らしいです。これからますます人間とAIの調和は課題になっていきますが、AIの進化と比例して、わたしは人間はより人間らしく在ること、成長することが必要だと感じています。
また、人間関係の調和は「個」があるからこそ生まれるものです。ユングの唱えた「集合的無意識」ももちろんあると思います。「あなたはわたしで、わたしはあなた」。でも、あなたとわたしは同一の存在ではない。「あなたはあなたで、わたしはわたし」。あなたとわたしがちがうから、調和が生まれてくるんです。「ほんとうの調和というのは、お互いに意見をぶっつけ、フェアにぶつかりあうこと」と、岡本太郎も言っています!

そういえば、11月からApple TVで「プルリブス」という作品がリリースされましたが、主人公と数人以外、「人類が同じ意識を共有する世界」が描かれるSFです。まさに「個」が失われていく世界。それは平和な世界。でも、AIに支配された世界のようにも見えて、すでに現実世界で「同じ」であることに安心を覚える人々を風刺しているようにも思えます。
脱線しましたが、個を確立するためには、自分をよく理解しないといけません。大人のみなさんは、記憶があるなしにかかわらず、たいてい子どもの頃に植え付けられた概念でがんじがらめになっているように思います。
守っている常識やルールがいまの時代に即しているのか、チャッピー(※)が出す答えは正解なのか、出る杭は打たれるのか、あいつはすごくて自分はだめなのか、やりたいことをやってるだけじゃ食べていけないのか、ほんとうに欲しいものはお金なのか、それとも…?
自分を縛る鎖に気づいたらもうこっちのもんです。未来に向かって自分の望むことをやっていけばいい。過去を清算して、未来を描いて、いまを自分として生きる。今回の登場人物たちはそんなふうに作っています。
※ChatGPTの愛称
「人生のリスタート」を届けるために

主人公・草道蒼太(演:中沢元紀さん)は、ニートのゲーマーで「メタバースで謎のアバターに声をかけられることによってスマート農業に乗り出す」という設定です。
以前、ドローンが戦争で使われているのをみて、「ゲームのようにひとを殺すのか」と思ったことがあります。でもスマート農業を象徴するのもドローンです。「ゲームのように食べ物を育てたり、人間の幸せを支えたりする道具」だったら素敵なわけで、そうであれ光あれ、という気持ちでゲーマーという設定にしました。
ニートという設定は、農業の人手不足が、日本のニート60万人とのマッチングによって解決したらいいのに、という単純な発想がきっかけで考えました。でもわたしは、どんな事情があったにせよ、いつからでも人生はやり直せるし、ぜったいに手を差し伸べてくれるひとはいるから大丈夫だと心の底から信じているんです。これは経験談なのでまちがいないんです。それだけでも、蒼太を通じて伝えられたらと思いました。

ちなみに蒼太の性格は、映画『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』を観て固まりました。村上春樹氏の「風の歌を聴け」や恩田陸氏の「Spring」から影響を受けたりも。監督たちや中沢さんに「蒼太ってどんなひと?」と聞かれるたびに答えていたのは「『ショーシャンクの空に』のアンドリュー」でした。心が共鳴するたくさんの点と点をつなげて、人間を作り上げていくプロセスが、わたしはとても好きです。
ほか、蒼太はゲーム会社の会社員時代に上司にパワハラめいた扱いを受けていたり、沢樹結女美(演:石川恋さん)はPR会社のバリキャリで男性上司との不和を描いたり、立花龍郎(演:髙松アロハさん・超特急)は雑草好きの大学院生で集団への馴染めなさを描いたり、現代社会で散見されるいろんな「調和していない」問題を孕ませています。きっと観た方は、全登場人物のだれかには、共感あるいは反感を抱くはず。
農家さんは、スマート農業を導入した犬山浩(演:小松和重さん)と代々続く米農家・猿島次時(演:山内圭哉)をどのようにご覧になるのか、たのしみ&ドキドキです。
おわりに:物語作りは、人生そのもの

Amazon Prime Videoで今年シーズン4で完結した「アップロード」は、いつでも死を選べる、仮想空間で生きていける世界を描いていました。デカルトの「我思うゆえに我あり」がキーワードだったんですが、「思考が自分を定義つけているのか、いやちがう」というのがこの作品のメッセージだったと思います。わたしという存在をつくるのは、肉体と精神、そして魂。Netflix「エレクトリック・ステイト」でもVRゴーグルをつけたまま動かない人々が描かれていたり、海外のほうが求道心とテクノロジーへの猜疑心が強そうです。
いまは主に、生成AIを前にしたクリエイターたちが反旗を翻していますが、AIがもっともっと、そして急速に生活に根づいて便利になっていくことはまちがいなくて、「君たちはどう生きるか」の問いの答えを一人ひとりが見つけ出さないといけないタイミングだと思います。人間としての、わたしの喜びってなんなんだろうと。
でも、これはミラクルなタイミングでもあります。せっかくいまこの時代に生きているんだから、同じ阿呆なら踊らにゃ損損ですよね?人生をたとえる言葉は数あれど、わたしはずっと「ゲーム」だと思ってきました。このゲームをクリアするときは、死ぬときだけです。それまでは、「ああミスったもいっかいやってみよう♪」の繰り返しで、気楽に遊ぶように歩んでいけたらいいなと思います。
今回の作品も、真面目に観ていただかなくて大丈夫です。もちろん真面目に観ていただいても大丈夫です。みんなバラバラ、一緒じゃないまま、希望に集まっていければうれしいです。
ドラマ「ゲームチェンジ」ご紹介
放送日時:2026年1月8日(木)よる11時スタート 全10話(30分枠)
※BS-TBS、BS-TBS 4Kで同時放送
※HBC北海道放送 2026年1月8日(木)深夜1時56分スタート(※30分繰り下げ)
第2話以降:毎週木曜 深夜1時26分~
RKB毎日放送 2026年1月10日(土)深夜2時30分スタート
(放送日は特別編成により変更になる可能性あり)
■出演
草道 蒼太/クサミチ・ソウタ・・・中沢 元紀
沢樹 結女美/サワキ・ユメミ・・・石川 恋
立花 龍郎/タチバナ・タツロウ・・・髙松 アロハ (超特急)
犬山 萌子/イヌヤマ・モエコ・・・丹生 明里
葉室 京子/ハムロ・キョウコ・・・中村ゆりか
猿島 次時/サルジマ・ツギトキ・・・山内 圭哉
犬山 浩/イヌヤマ・ヒロシ・・・小松 和重
太田 優/オオタ・ユウ・・・鈴木拓(ドランクドラゴン)
中屋敷 昭美/ナカヤシキ・アケミ・・・・青木さやか
竹下 愛一郎/タケシタ・アイイチロウ・・・いとうせいこう
■スタッフ
企画・脚 本・プロデュース:青野華生子
監 督:田中和次朗(1話~3話・7話・9話・10話)
中山佳香(5話・6話・8話)
伊藤一平(4話)
音 楽:成田ハネダ(パスピエ)
オープニングテーマ:INF「CHANGE DA GAME」(チェンジダゲーム)(キングレコード/HEROIC LINE)
エンディングテーマ:ラブリーサマーちゃん「ウインド・ソング」(日本コロムビア)
プロデューサー:黒木彩香(BS-TBS)、三好保洋(さざなみ)、伴健治(さざなみ)
製作著作:「ゲームチェンジ」製作委員会
製作委員会:BS-TBS、TBSグロウディア、HBC、RKB
制作プロダクション:フラッグ、さざなみ
コピーライト表記
©「ゲームチェンジ」製作委員会(短縮形:©GC)
■関連URL
番組ホームページ https://bs.tbs.co.jp/drama/gamechange/
番組公式X(@bstbs_drama23) https://x.com/bstbs_drama23 #ドラマゲームチェンジ
番組公式Instagram(bstbs_drama23) https://www.instagram.com/bstbs_drama23

青野 華生子
株式会社フラッグ クリエイティブソリューション事業部 第4コンテンツ制作部
テレビ東京での勤務を経て、2022年よりフラッグに所属。「東京怪奇酒」「直ちゃんは小学三年生」「姪のメイ」など多彩なドラマ作品を手がけるほか、マンガ原案やバラエティ番組のプロデュース、プロモーション映像の企画・プロデュースなど幅広く活動している。


