概要
12月1日の「映画の日」にちなんだコラムの第二弾。このコラムでは、フラッグが出資する劇場アニメーション作品『この本を盗む者は』 (12月26日公開)を通じて、エンタメ作品が持つ「人を動かす力」と、オリジナルアニメへの投資に込めた想いについて、自社IPの企画開発やコンテンツ投資を担当する、エンタメ企業の執行役員がご紹介します。
はじめに
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』や『名探偵コナン 隻眼の残像』といった劇場アニメが100億円を超える大ヒットとなり、劇場アニメは映画界において確実に地位を確立してきました。かつてはニッチな存在だったアニメ映画が、今や日本映画興行において欠かせない柱となっています。
一方で、シリーズものや漫画原作の作品は安定したヒットを飛ばすものの、完全新作のオリジナル劇場アニメはまだまだ成長過程にあります。既存の人気や知名度に頼らないオリジナル作品が継続的にヒットするようになってこそ、日本のアニメ産業の真の成熟と言える のではないでしょうか。
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(引用:KADOKAWAanime公式YouTube )
そんな中、12月26日に『この本を盗む者は』 というオリジナル劇場アニメが公開されます。深緑野分氏の小説を原作とした本作品に、フラッグは出資を決めました。それには二つの理由があります。一つは、オリジナルアニメを応援し、その市場を育てていきたいという想い。そしてもう一つは、映画がもたらす「人を動かす力」への期待です。
12月1日は映画の日。この機会に、改めて映画がもたらす人を動かす力、そしてエンタメが持つ可能性について考えていきたいと思います。
『国宝』がもたらした新しい体験の入り口
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(引用:東宝MOVIEチャンネル )
今年6月の公開から話題を呼び、興行収入170億円を突破(※11月17日時点)した『国宝』。SNSでの口コミが話題を呼び、公開後も長期にわたってヒットを続けた本作ですが、映画としての大ヒットだけではなく、その題材となった「歌舞伎」という日本の伝統芸能にも大きな影響を与えたことは特筆すべき現象です。
今まで歌舞伎を見たことがないであろう若い世代、特に10代から20代の観客が、『国宝』を通じて歌舞伎という世界に興味を持ち、実際に歌舞伎座への来場者数が顕著に増加したのです。
これは単なる一過性のブームではありません。映画というメディアが、まったく知らない世界、触れたことのない文化を魅力的に見せてくれることによって、新たな興味を喚起し、「歌舞伎を見てみたい」という強い衝動を呼び起こし、実際の鑑賞行動へとつなげているのです。これこそが、映画が持つ人を動かす力であり、エンタメが社会に与える影響力 を証明してくれています。
映画館のスクリーンで見た世界が、観客の日常に新しい扉を開く。そんな体験を『国宝』は多くの人々に提供したのです。
実感する映画の力—人生をも変える体験
私自身も、映画によって人生を大きく変化させられた人間の一人です。高校2年生の時、将来の進路について真剣に悩んでいました。自分は何になりたいのか、何をしたいのか。明確な答えが見つからない日々が続いていました。
そんな時期に、犯罪捜査をテーマにした映画や海外ドラマに夢中になっていた私は、いつしか将来FBIになりたいという壮大な野望を抱くようになりました。しかし現実は厳しく、調べていくとアメリカ国籍が必要だったり、様々なハードルがあることがわかりました。
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(引用:マイシアターD.D. 公式チャンネル )
そんな時に公開されていたのが『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』でした。警察組織をリアルに描いたこの作品を見て、私の中で新たな可能性が開けました。日本の警察組織の中でキャリア官僚になれば、将来的にアメリカへの留学や、あわよくばFBIとも協力できる立場になれるのではないか。そう考えた私は、警察官僚を目指すことを決意し、志望校を東京大学に定めました。(今、警察官僚になっていないのには様々な紆余曲折があるのですが、それはまた別の機会にお話しします)
映画が私に見せてくれた世界のおかげで、明確な夢を持つことができ、私の行動にも大きな変化が生まれました。それまで漠然と過ごしていた高校生活が、目標に向かって努力する日々へと変わったのです。映画の持つ人を動かす力を、私は身をもって実感している一人なのです。
『この本を盗む者は』に今、出資する理由
(引用:KADOKAWAオフィシャルサイト )
フラッグとして、今までいくつかの映画作品に出資やプロモーション支援などを行ってきましたが、今回は劇場アニメーションへの出資をすることになりました。しかもこの作品は、小説を原作とした劇場アニメーションであり、テレビ放送で知名度を得ている作品ではありません。ビジネス的に見れば、リスクの高い判断かもしれません。
はじめに挙げた「鬼滅の刃」や「名探偵コナン」以外にも、今年公開された『チェーンソーマン レゼ編』や『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』といった、漫画原作かつテレビシリーズ放送で既にファンベースを持つ作品の劇場版は、安定したヒットを重ねられるようになりました。これらの作品は、既に確立されたIPの力によって、ある程度の興行成績が見込めるのです。
一方で、今後も日本のアニメコンテンツの盛り上がりを継続的に維持し、さらに発展させていくためには、スタジオジブリや新海誠監督、細田守監督のような、オリジナルアニメの力が不可欠になってくると私たちは考えています。既存のIPに頼らず、新しい物語、新しい世界観で観客を魅了できる作品が生まれ続けることこそが、日本のアニメ産業の真の強さを示すもの だからです。
その中で今回、既存シリーズに依存しない完全新作である『この本を盗む者は』、そして今勢いのある福岡大生監督と黒澤桂子作画監督のタッグの作品を応援するということで、出資を決定しました。
オリジナルアニメもまた、既存シリーズと同様に、あるいはそれ以上に、人々に新しい世界を見せ、次の一歩を踏み出す力を持っています。だからこそ、私たちはこの作品を心から応援したいと考えています。
『この本を盗む者は』がつなげる次の一歩
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(引用:KADOKAWAanime公式YouTube )
『この本を盗む者は』 は、本が大嫌いな少女が主人公です。家族が所有する巨大な書庫「御倉館」にかけられた本の呪い「ブックカース」に巻き込まれて、主人公が小説の世界へと文字通り入り込んでいく冒険ファンタジー作品です。彼女はいくつもの異なる小説の世界を冒険していくうちに、あんなに嫌っていた本の世界が持つ無限の魅力に、徐々に取り込まれていきます。
この作品の魅力は、小説だからこそ可能な「無限のジャンルを行き来する自由」と「言葉が喚起する想像の世界」を、アニメーションという視覚芸術が丁寧にビジュアル化することで、読む楽しみと観る喜びを見事に融合させている点です。頭の中で描いていた世界が色と形を持って動き出す興奮と、映像化によって初めて気づく新たな物語の面白さ 。二つのメディアが互いを高め合う、贅沢な体験ができる作品です。
もともと小説が好きな人はもちろん、最近忙しくて小説を読んでいなかったという人や、活字を読むのは少し苦手意識があるという人にも、この作品を見終わった後、きっと小説の世界を冒険したくなるはずです。かくいう私も試写会で作品を見終わった後、久しぶりに心が動かされ、つい帰りに書店に立ち寄って小説を一冊買ってしまいました。読書から遠ざかっていた自分が、また本の世界に戻りたいと思わせてくれたのです。
さいごに
自分が知らない世界を見せてくれて、世界を広げてくれる映画。『国宝』が多くの人々に歌舞伎への扉を開いたように、『踊る大捜査線』が私の進路を変えたように、『この本を盗む者は』もまた、多くの人の世界をほんの少しだけ広げ、次の一歩を踏み出すきっかけになってくれると信じています。
それこそが、映画が持つ人を動かす力なのです。エンタメは単なる娯楽ではありません。人の心を動かし、行動を変え、時には人生すら変えてしまう力を持っています。12月26日に公開される『この本を盗む者は』が、多くの人々にとってそんな作品になることを、心から期待しています。