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【2025年国内映画興行レポート】メガヒット連発の裏に潜む「構造的課題」とは?

概要

12月1日の「映画の日」にちなんだコラムの第一弾。このコラムでは、メガヒット作品が相次いだ2025年の国内映画興行市場を振り返りながら、好調な数字の裏に潜む構造的な課題について考察します。

はじめに

映画の日と言えば、入場料半額の日として認識している人が多いと思います。12月に限らず毎月1日がサービスデーとして半額になっている映画館も多く存在しますが、実は全国一律どの映画館も半額になるのは12月1日のみなんです。

ということで、全国どこでも必ず割引になる映画の日に、ぜひ映画館に足を運んでいただければと思います。

12月1日の「映画の日」は、ぜひ映画館へ

12月1日は映画の日です。これは、1896年に日本で初めて映画が一般に公開された時期に由来しています(初公開日は実は12月1日ではないのですが、ここではひとまず脇に置くとして…)。

映画の日といえば、入場料が半額になる日として認識している人が多いと思います。12月に限らず、毎月1日をサービスデーとして割引を実施する映画館も多く存在しますが、全国一律で半額になるのは12月1日のみです。
ということで、全国ほぼすべての映画館で割引になる映画の日に、ぜひ映画をご覧いただければと思います。

そんな映画の日を前に、ひと足早く2025年の国内映画興行市場を振り返ってみたいと思います。まだ11月、お正月映画の登場を控えたタイミングではありますが、みなさんに年内にあと何回か映画館に足を運んでいただくきっかけになれば幸いです。

過去最高の興収記録も視野に メガヒットが牽引した2025年市場

年間興行収入の過去最高記録は2019年の2,612億円です。その後、コロナ禍で市場は大きく落ち込みましたが、今年は6年ぶりに記録更新も狙える状況です。10月までの累計では、昨年(2024年)の125%、2019年の92%となっており、これから公開されるお正月作品の興行次第にかかっています。

(引用:TOHO animation チャンネル

11月7日に公開された『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』は、公開4日間で7.1億円の興収を上げ、初登場1位の好調なスタートを切りました。これまでのテレビシリーズの総集編に、これから放送される新作の一部を先行上映するという、アニメ作品の興行形態としては近年よく見られるパターンです。

今後年内に公開を控える大作は、山田洋次監督、倍賞千恵子・木村拓哉主演の『TOKYOタクシー』、細田守監督作品『果てしなきスカーレット』、人気シリーズ続編の『ズートピア2』『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』、テレビドラマの劇場版『映画ラストマン FIRST LOVE』『劇場版 緊急取調室 THE FINAL』などがあります。そして、フラッグが出資するアニメ作品『この本を盗む者は』も12月26日(金)に公開予定です。

(引用:アニプレックス チャンネル

このように好調な市場環境を支えたのが、メガヒット作品の存在です。興行収入歴代1位の前作(407.5億円)に次ぎ、歴代2位となる勢いの『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(11月9日時点で380億円)をはじめ、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(173億円、2003年)に迫り、実写邦画の興収歴代1位確実な『国宝』(11月20日時点で172億円)、毎年安定のシリーズ『名探偵コナン 隻眼の残像』(147億円)の3作品が、興収100億円超を記録しました。歴代興収トップ20に、1年で3本がランクインするのは近年まれに見る当たり年と言えます。

また、現在も動員が続く『チェンソーマン レゼ篇』は11月20日時点で88億円となり、今年4本目の興収100億円到達作品になると見込まれています。

好況の裏に潜む課題と構造変化

(引用:パラマウント・ピクチャーズ(日本版)公式YouTube

このように一見好調に見える市況ですが、実態としては一部の作品に観客が集中し、その他多くの作品が興行面で苦戦を強いられています。アニメ作品への依存度は年々高まっており、コロナ禍以降不振が指摘される洋画は今年も回復の兆しが見えず、厳しい市場環境となりました。洋画の興収上位は『ミッション:インポッシブル ファイナル・レコニング』(53億円)、『ジュラシック・ワールド 復活の大地』(48.9億円)、『マインクラフト ザ・ムービー』(39億円)で、100億円クラスの作品はありませんでした。2019年には興収20億円以上の洋画作品が15本、10億円以上は22本ありましたが、2025年にはそれぞれ6本と10本まで落ち込みました。

(引用:ナタリー

こうした市況を受け、ハリウッドメジャー大手のワーナー・ブラザースは日本での自社洋画作品の配給を2026年から外部委託する方針を決め、該当部門の閉鎖を決定しました。日本での洋画配給の雄として知られたワーナーの国内配給撤退は、業界内でも大きな衝撃をもって受け止められています。

またアニメ作品においても、シリーズものや原作ものではない劇場オリジナル作品の興行は苦戦する傾向にあります。ヒットが大型IPに集中する状況は、コンテンツの多様性を損なう危険性があり、さまざまなジャンルの作品が提供される豊かな市場の形成とは逆行している、との指摘もあります。短期的な収益性だけでなく、次のコンテンツづくりの担い手を育て、長期的な市場育成を図るという観点からも、一極集中から多極分散的な市場の実現が重要です。私たちもそのために、マーケティング力とクリエイティビティを駆使し、業界に貢献していかねばならないと感じています。

まとめ

来年2026年が映画業界にとって素敵な年になることを祈りつつ、ひと足早い2025年の映画興行振り返りを締めくくりたいと思います。

久保 浩章

株式会社フラッグ 代表取締役
東京大学経済学部在学中の2001年にフラッグを創業し、04年1月に株式会社化。映画をはじめ、エンタメ業界のデジタルマーケティング支援を中心に手掛ける。

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