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現地から最速レポート!エンタメ企業社長が語る「カンヌ国際映画祭2025」- 映画祭の基礎知識編 –

概要

このコラムでは、最も権威ある映画祭とされる「カンヌ国際映画祭」について、イベントの特徴や現地の様子、映画業界における重要性などを幅広く解説。

実際に「カンヌ国際映画祭2025」に参加したフラッグ代表の久保の、現地レポートとなっております。

目次

カンヌ映画祭とは?

「世界三大映画祭」の一つ

毎年5月にフランス南部のカンヌで開催されるカンヌ国際映画祭は、ベルリン国際映画祭ヴェネツィア国際映画祭とともに「世界三大映画祭」の一つとされ、最も権威と栄誉ある映画祭として映画ファンのみならず世界中の人々にその存在を認識されています。

作品上映会場のひとつ、カンヌ市内の映画館「オリンピア」

コンペティション部門最高賞「パルム・ドール」

映画祭とはそもそも様々な映画作品を上映する場ですが、カンヌで最も盛り上がる企画がコンペティション部門であり、ノミネートされた作品の中から優秀な作品を決定し、表彰します。

このコンペ部門の最高賞が「パルム・ドール」であり、最高賞の次の賞が「グランプリ」と呼ばれます。一般的にはグランプリが最高賞を指すため、よく勘違いが発生することになります。「パルム・ドール」を受賞した日本人は過去に衣笠貞之助『地獄門』(1955年)、黒澤明『影武者』(1980年)、今村昌平『楢山節考』(1983年)と『うなぎ』(1997年)(なんと2回も!)、そして2018年に是枝裕和監督『万引き家族』が受賞しており、日本映画および日本人監督への評価が高い映画祭とも言えます。また新人賞は「カメラ・ドール」と呼ばれ、日本人では河瀬直美監督が1997年『萌の朱雀』で受賞しています。

パルム・ドールを受賞した作品は映画ファンやメディアの注目度も集めるため、興行の成功も期待されます。近年では日本で興収47億円を超えた『パラサイト 半地下の家族』も2019年のパルム・ドール作品であり、先述の『万引き家族』も国内興収45億円以上の大ヒットとなりました。ただカンヌのコンペは娯楽作品よりも映画通好みな作品が選出される傾向にあるため、ここまでの大ヒット作品はあまり多くありません。昨年2024年のパルム・ドール『ANORA アノーラ』は国内興収2億円に止まっています(作品ジャンル等を考慮すればこの成績でも十分健闘していると言えますが)。

映画作品プロモーションには絶好の機会

個別作品の興行成績はさておき、世界で最も権威ある映画祭であり、多くの映画ファンやメディアが注目するため、作品のプロモーションを行う上で絶好の機会であることは間違いありません。そのため、カンヌを一般向けの初お披露目の場にしたり、監督や俳優陣が舞台挨拶を行うなど、格好の宣伝の場として世界中の映画会社がカンヌという機会を有効活用していることも見逃せません。

こうした情報発信の効果があるため、世界中の注目作品がカンヌに集まり、その結果ますますカンヌが注目を集めるという、正の循環が発生しているのです。

多くの日本の映画会社が出展する中、映画会社「松竹」のブース

映画祭期間中のカンヌにはのべ50万人以上が来ると言われており、映画業界人やメディアだけでなく一般の映画ファンも世界中から訪れます。まだ世に出ていない素晴らしい映画との出会いを求める生粋の映画ファンから、有名人に会ったり一緒に写真を撮ってインスタにアップしたいというミーハーな人たちまで、多くの人たちで狭いカンヌの街はごった返しています。

実は映画祭以上に重要なマーケット

映画祭の裏の顔「マルシェ」

このように華々しいカンヌ映画祭ですが、実はもう一つ裏の顔をもっています。それは「マルシェ」と呼ばれるマーケットの存在です。マーケットとは映画祭と併設の形で開催される、映画業界の見本市のようなものです。世界中の映画会社がブースを出展し、映画の権利の売買が会場のそこここで行われています。映画を売る側=セラーと、映画を買う側=バイヤーが世界中から集う街、それがカンヌです。

実際のマルシェ会場の外観

また権利の売買だけでなく、映画を作る制作会社や映画撮影の誘致を目論む国や自治体、フィルムコミッションなどもブースを出展しています。映画作品が世界中に流通し、多くの人たちに観てもらうためにとても大事な役割をマーケットは果たしています。映画業界にとっては映画祭と同様、むしろそれ以上に重要なのがこのマーケットなのです。

カンヌのマルシェは世界最大!

マーケットは他の映画祭でも開催されていますが、世界でもっとも大きなマーケットがカンヌのマルシェです。映画祭自体の注目度が最も高いこともありますが、やはり映画業界で働くなら一度はカンヌを訪れてみたいと思う人も多く、映画界における権威あるポジションを確立していることも大きく影響しているかもしれません。(一度訪れてみると、思っていたより町並みが鄙びていて「えっ、これがカンヌ??」と思う人も結構いるとかいないとか…)

ちなみに世界でもっとも大きな映画産業を抱えるアメリカでもAFM(American Film Market)と呼ばれるマーケットが毎年開催されていますが、近年では残念ながら人気が無く、参加する業界関係者が減少している印象です。AFMは映画祭との併設では無くマーケットだけの単独開催であり、映画祭が無いなら商談のためだけにわざわざ行きたくないという映画業界人のミーハーな(しかし重要な)感覚も影響しているように思います。

現地には知人も多く、良い情報交換の機会にもなっています

僕はカンヌ映画祭・マルシェにはコロナ前の2019年と、2023年以降は毎年参加しており、今回で4回目です。映画業界では例年参加しているという方も多く、特に買付担当=バイヤーで、カンヌに来ない人はまずいません。そのため、街を歩けば知り合いとよく出会うことになります。ランチやディナーする時にも、同じレストランに知り合いがいるのは当たり前、下手すると隣の席にライバル会社の人たちがいるから詳しい話ができない…といった具合に、世間は狭い!を概念的にも物理的にも感じることになります。

まとめ

ここまで、「世界三大映画祭」のひとつであるカンヌ国際映画祭について、映画業界におけるイベントの立ち位置や映画業界の見本市「マルシェ」を解説しました。

2025年の日本作品の参加状況や、コンペティション結果を受けての映画市場の傾向については、「現地から最速レポート!エンタメ企業社長が語る「カンヌ国際映画祭2025」- 映画祭総括編 -」で解説しております。併せてご覧ください。

ライター

久保 浩章

株式会社フラッグ 代表取締役
東京大学経済学部在学中の2001年にフラッグを創業し、04年1月に株式会社化。映画をはじめ、エンタメ業界のデジタルマーケティング支援を中心に手掛ける。

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